薬を使わない排尿ケアは可能か

排尿障害は、特に在宅介護において、家族が行うケアに大きな負担をかけます。排尿障害は、正確な診断と適切な生活指導を行うことで、劇的に改善するケースもあります。皆さんは、元気なうちは、できるだけ自宅で暮らしたいと願っているでしょう。そのためにできること、基礎知識は何でしょうか。

この記事の目次

適切な管理で脱おむつ生活

まずお聞きします。

男性医師

「あなたは、どのような状態になったときに自宅での療養生活から老人ホーム等の施設入所を考えると思いますか?」

最も多い結果だったのが

「自分ひとりでトイレに行くことができなくなったとき」

と答えた方の割合が約60%です。

また、在宅で介護を受けている高齢者の中では、排尿介助を受けているほうが家族の介護負担感が高いとの報告もありました。

在宅介護が増える今後、特に排尿ケアに関しての正しいケアの方法や治療そして生活習慣の改善の重要性は注目されることだと感じています。

病院検診

 

在宅患者のうち70%は、紙おむつを使用し、そのうちの約90%は日中夜間とわず丸一日、紙おむつを着用している実態もありながら、脱おむつができると考えられるケースは40%もありました。それほど安易に紙おむつが使用され消費されているとは驚きで、さらに40%の人が脱おむつができるとは排尿ケアの在り方を見直す余地が充分にあろうかと思います。

高齢者の排尿障害は判断が難しい

排尿障害は大きく分けて2つに分類できます。蓄尿障害と排尿出障害で、それぞれ原因が違います。

1.蓄尿障害の原因(一部)

神経因性膀胱、過活動膀胱、肥満などの生活習慣病、間接性膀胱炎、膀胱炎、膀胱結石など

2.排尿出障害の原因(一部)

脊髄疾患、脳血管疾患、糖尿病、直腸がん、婦人科がん、前立腺肥大、内服中の薬剤など

下腹部に違和感 膀胱炎

尿排出障害によって、尿失禁、頻尿、排尿困難、尿閉などのさまざまな下部尿路症状があり、蓄尿障害で発生する症状は頻尿や尿失禁があります。

高齢者で特徴的なことは、この1.蓄尿障害と2.尿排出障害が混在し、さまざまな下部尿路症状を呈している複合的な排尿障害となっていることが多く、そのため高齢者での排尿障害は判断が難しくなっていますそのため、下部尿路症状とその原因の障害とが一致しないことがあります。例えば、蓄尿症状の一つとして頻尿がありますが、蓄尿障害である過活動膀胱が原因で起こっている頻尿は、膀胱が過敏な状態となるため起こり、一般的には排尿後の残尿はほとんどありません。

チョイ漏れ

いっぽう、膀胱内に残尿が多い場合にも頻尿となる場合があります。この場合は排尿後の次にたまる尿量が少なく、尿がたまるまでの時間も短いために、頻尿となります。また残尿が多量であると腹圧がかかった際などに尿失禁がみられることがあり、この場合は蓄尿障害が原因の尿失禁ではなくて、尿排出障害が原因の溢流性尿失禁と診断されます。この判断を間違ってしまうと、頻尿に対して抗コリン薬などの薬剤が投与されたり、誤った生活指導が行われて、症状の悪化や尿閉を起こしてしまうこともあります。

このように、症状から蓄尿障害と尿排出障害を区別することが難しい場合もあって、正確な診断のためには、残尿測定などの確認も必要となってきます

 

排尿ケアの判断を間違えないためにできるコト

1.排尿日誌

排尿日誌の記録によって、一日の飲水量と排尿量、失禁の有無、排尿時間などの状況が視覚的にわかるようになります。特に夜間頻尿の場合は、夜間多尿による夜間頻尿を呈することが多く、排尿日誌には診断や治療そしてその後の効果判定にも役立ちます。頻尿の中には多飲多尿が原因のこともあるので、排尿日誌を記録するときには飲水量も記載するとよいです。一般的に水分の摂取量は、体重の2~2.5%が適当とされています。 ※適切な水分摂取量は気温や運動量で変わるので注意してください。

2.生活指導

過活動膀胱と生活習慣には関係があり、肥満、運動、喫煙、食事、飲水、便秘など様々の生活の要因が過活動膀胱の原因に関係するとされています。これらに対する生活習慣の改善は、過活動膀胱の治療として推奨されています。そのほかには、便秘改善、過度のカフェインやアルコール摂取の回避、水分摂取制限、薬の制約、長時間座位の回避や、下半身の冷え対策など生活指導が推奨されているものの、それらを単独で行うよりも他の行動療法との組み合わせで行われていることが多くあります。高齢者に対しては、生活指導を行ったほうが、排尿障害の改善効果が高いとの実績もあるほどです。

高齢男性の腕組み写真

3.骨盤底筋運動

骨盤底筋運動の目的は、その骨盤底筋の強化によって、尿道を閉める力の増強と、腹圧上昇時に骨盤底筋群を収縮させることです。骨盤底筋体操は、一般的に腹圧性尿失禁の治療法のひとつとして利用されていますが、過活動膀胱の原因にも骨盤底筋群の衰えの可能性もあり、骨盤庭訓体操は腹圧性の尿失禁だけではく、過活動膀胱の改善にもつながる可能性があります。実際には、膣や肛門を締めたり緩めたりすることの反復運動となりますが、推奨されている様々な姿勢がありますので、インターネット等で調べてみてください。

 

注意したいことは、骨盤底筋トレーニングは、1日にして効果は出ることがなく、少なくとも8~12週は続けていただく必要があります。副作用の心配はありませんが、なかなか効果が見えにくく、継続することを、いつのまにか忘れてしまったり、いつまでも効果が出なくて途中でトレーニングを止めてしまいがち。続けるコツとしては、わざわざトレーニングの時間を設けずに、診察の待ち時間や信号の待ち時間などに骨盤底筋運動をする癖をつけるようにしたいです。もちろん、尿失禁のない方でも、トレーニングをすると予防にもなりますので、お勧めです。

4.膀胱訓練

過活動膀胱による頻尿には、膀胱訓練という方法もあります。これは、尿意をなるべく我慢し、少しずつ膀胱にたまる尿量を増やし、排尿する間隔を延ばす訓練となります。膀胱訓練は通常、過活動膀胱や切迫性尿失禁に対して推奨され、安全性も高いのでお勧めです。※注意:残尿が多い場合は訓練しないでください。

 

高齢者2人の笑顔

このように、高齢者の排尿ケアは、単に薬物療法だけではあきらめずに、簡単にできる骨盤底筋運動をはじめ、生活習慣から見直してみると良いかと思います。

 

 

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